TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[2-47]

　現在いるのは中央学区だから…少し、南側へ進むことになる。南学区の南の端だったから、そこまで時間はかからない。
「あ」
「どうした？」
「考えてみたらさ…あの子の返事、ただ待つんじゃなくてさ。学校は東学区にあるんなら直でそっち向かって返事聞いた方が早かったんじゃ…？」
　ちょっと、考え込むクモキリヤ。
「しかしすでに文は出しておるのだろう？　返信の行き違いになったりしたら目も当てられんぞ？」
「あ、そっか」
「…まあ、じっくりやればよいさ。ヴェーラ村といってもそうカンタンに行けるわけでもない。あの考古学者殿の準備もしっかり整えてやらんといかんであろうに？」
「あー…あの様子だと旅は初めてっぽいか…」

　…初めての旅。かあ…

　ドリスはノルザムランドのラチャクという町で承諾書にサインしている。これはそれまでいた村に薬協がなかったからである。
　そんな彼女には両親の記憶がない。
　…ラチャクの近くにリンヌプ村という小さな村がある。いわゆる門前町と言うか何と言うか。中央に寺院があって、それを取り巻くように出来上がっていった小さな村。そこでドリスは14歳まで育った、のだが…彼女の生まれ故郷ではない。ある冬の日の朝。寺院の門前に毛布にくるまれて置かれていたのだ。おわびのつもりなのかその赤ん坊の枕元には数枚の銅貨が置かれていたという。
　その時からドリスは寺院で育ち…やがてラチャクに出てきてそこでルートセラーになった。

　そのため「初めての旅」となるとこのラチャク行き、ということになる。
　…どんなんだったっけ？
　あんまりよく覚えていない。親代わりになってくれていた和尚や僧侶のみんな、それにお手伝いのおばちゃんなど、そんな人たちに見送られて…村を出た、はずなんだけど…どんな準備してたっけ…？
「覚えてないなあ…」
「なんだ？　何か忘れ物か？」
「いや、そうじゃなくて…」
　…どんなんだったけな…
「あんたはどうだったの？　初めての旅の時って？」
「そうだのう…」
　あごに手をあてて、少し、考える。
「あまり覚えておらんな。ん…そうだな、雨が降っていたくらいかのう…細い、霧のような雨だったかのう…」

　そろそろ南学区へ入る頃合である。順当に行けば夕方くらいにはルチアの部屋に戻れるだろうか。
　あの時に世話になった雑貨屋へ行ってみる。…なんだか人が多いような、こう言っちゃなんだがそこまで繁盛はしていなかったような…？
「あ！　あんた！　いたいた！」
　と、いきなりクモキリヤを見つけて…
「おうい！　戻ってきたぞ！」
「ホントだ！」
「早く売ってくれ！」
　…って…何この熱気…？

「はは。いや、参ったのう。では…早速いくとしようか」
　担いでいた木箱を下ろす。その周りにわっとばかりに人が集まる。
「そちらはカンゾソウか、それ。ふむシャソの実か、ここじゃ。…ナリハヤの枝とな。ふむ、しばし待たれよ…」
　あまり聞いたことのない名前が多いのは彼の地方独自のものなのか実は別名なのか。
　…へえ…すごいね
　その辺も興味あるのだが…この集客力の方が気になる。あの時はドリスの方に客が集中していたのだが、今、この場ではクモキリヤの方が明らかに優勢である。今日は商売道具持ってこなくて良かった…とか思ってしまうほどに。こんな場で店開いたって売れるもんじゃない。
「いやー、助かったよ、戻ってきてくれて」
　雑貨屋の主人も心底ホッとした様子。
「？」
「いやね、あれからあの妙な格好したルートセラーはどこだ、いつになったら戻ってくる、なんとか連絡つかないか…ってね。うちの商品はさっぱり売れないのに、そこばかり聞いてくる客が増えててね…いやでもこれでなんとかなりそうだねえ…」