TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[2-49]

「え？　だってあんたそれ以上持って歩けないでしょ？」
「はあ…まあ、たしかに」
「自分のできる範囲内でコトを収める。そういう考えは大事じゃな。我々とて余分な荷を持てるほどの余裕はないものなのでな」

　しかしそれでも足りないものは出てくるものである。
「…げ。まだ何か必要なんですか…」
「消耗品、というやつね。薬品だったり非常食だったり」
「うむ。在庫の中にあるものもあるが…ないものもあるでな。この際にキチンと補充しておくことは必要じゃな」
「じゃあすぐに買い出しに…」
「あんた今動けないじゃない」
　東学区の東の端にあるというルチアの勤務先・ダブリナール大学校に便りを出してその返事待ちなのである。即座に、とは行かないものなのだが…。

「まいどー」
　意外とあっさりとその返事は来た。粗末な封筒が、一枚。
「速配便ですね。他のに優先して配達してくれます。料金やや高いですけど」
「…いくらくらい？」
「これくらいでニンダスの中なら銅貨8枚ってとこですね」
「安いのか高いのか分からんな。比較対象がない」
「明日か明後日に着く通常便なら銅貨3枚ですね」
「それって…安い…んだろうか…」
「まー、でもほぼ確実に届けてくれますからね？　その方が楽な時もあるんですから安いと言えば安いですよ？」
　手紙を含めて荷物の配送なんて専門業者のある方が珍しいのである。しかも同じ町の中だとほぼ確実に届く、というのも非常に優れたシステムだったりする。これが他の町だと自分で持って行くか、知り合いの知り合いくらいに半分諦めて頼む、とかそんなもんである。

　で、肝心の中身なのだが。
　一読したルチアの表情がビミョーなのだ。困ってるというわけではなさそうなのだが…。
「なんて書いてあるの？」
　封筒の中には一枚の紙切れ。それを見せてくれる…。
『一度戻ってこい』
　へったくそのくせに妙に神経質そうな字で、これだけ。

「許すも許さん、もないのか…ふむ」
「反対はしないと思うのですが。あの人なら」
「コレ書いた人ってこと？　どんなヒト？」
「カレン・サンド・ジョンストン。ダブリナール大学校考古学教室室長兼資材管理局局長です。私の直属の上司です。…まー、何と言いますか無頓着な人なんですがこだわるところには異常にこだわると言うか…あ、専攻は一応古代からの陶器史ですね」
「…一応？」
「ウチの学校、専攻外のことにまで手を出してるのが多くて。局長も都市国家形成史もやってます」

「そもそも講師や職員だけじゃなくて学生もそんなのばっか、なので…実際には何やってるのかよく分からんのばっかりですよ」
　…あんたもな。
「ではとりあえず東学区の東の端にまで行く、ということでよいな？」
「そうね。…あ、それなら買い出ししながら行ってみよっか？　ノルザムランド向かうなら東学区から北学区へ向かえばいいのよね？」
「方角としてはそれで合ってますかね…」
「セントレランドからノルザムランドに、ってことならそんなもんよ」
「それなら一旦ビルマコッチャへ向かうのもアリか。足りないものも十分に補充できるしな。あそこからなら南北大街道に乗るのもたやすい」

「ビルマコッチャ…」
「知ってるよね？」
「そりゃ知ってはいますが…あ、そっか…直接行くこともできるんですね…そうですよね…」
「？　当たり前ではないか…」
　言いかけてクモキリヤも気づいたらしい。これまでニンダスからほぼ出たことのないルチアなのである。
「いつもは資料や資材調達専門の業者に頼んでいたのですが。そっか、自分で行くこともできるんですね…」