TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[2-52]

「ドリアンさん。あんた…出身はサウザムランドじゃないのかい？」
「え？」
「いや、おれは都市国家形成史と同時に民族文化比較学というのもやっていてだな…」
「こないだのはっぴょうか～い」
「黙れ。…特にサウザムランド近辺の民族を色々調査している。その対象の一つにソグール人という民族がいるのだが…」

　…知ってる？
　…いや知らん。

「すでに滅んだとされている民族なんだ。知る人ぞ知る、どマイナーっちゃあどマイナーな民族と言ってもいい」
　ちょっと考え込むような仕草。
「新古期…いやヘタしたら古期か。それくらいに姿を消したとされている」
「…もう昔話とか伝説みたいな連中じゃない」
「そうだな。年代物の文献漁ってようやくその断片が出てくるくらい、とかそんなもんだ」

「どんな人たちだったの？」
「商業民族とも呼ばれていて商才に長けた連中だった、というのが最も有力な説だな。今のように街道も何も整備されていない時代に各地を飛び回り商売をしていたらしい。他大陸へ頻繁に渡航していた、という伝承もある。まあ、未確証だがな」
　よその大陸へ行く、ということももちろん可能ではあるが例えばそれは海のないセントレランドではあまり身近な話ではない。他の四地方でなら…という程度である。
「他にも毒好きだった、とかそんな話もある。薬品に精通していた商人…まるでルートセラーみたいな連中だったのかも知れん」
「でも民族ぐるみだったら行商じゃあないかも。行商ルートセラーはソロが基本だから」
「そうか…その辺は違うか。大々的な隊商組んでた、って伝承がほとんどだしな」

「でもそんなはるか昔に滅んだ民族となんでドリスさんが…？」
「甘いなルチアナ。そのものはいなくなってもどこかに血や文化は形を変えてでも残る。サウザムランドの一地方には今でも自分たちはソグールの末裔だ、と伝えている人たちがいる村があるんだ。あ、いや、ソグールという名前は今は使ってないんだった。しかし村に残る伝承やら遺物やらを調べてみると、どうもソグールっぽい感触があるんだな、これが」
「へー、結構面白そうじゃないですか」
「おいおい、こないだの発表会でも一部を発表してたんだぞ？　ったく、てめえの専門外のことはホンっト気にしねえなあ」
「局長だって人のこと言えないくせに」
「はあ？　おれはだなあ…」

「で…その、ソグール人とあたしに結局何の関係があるの？」
　脱線していく会話に、なんとかクサビを打ち込んでみる。
「ああ、いや、何て言うかな…その村の人たちの面影がな…何と言うかあんたに通じるものがあるような気がしてな」
「勘ってやつですか」
「直感とも言う。…結構重要なんだぜ、こういうのも」
「でもドリスさんってノルザムランドの出身じゃなかったでしたっけ。たしか…リンヌプ村」
「うん」
　正確には出身ではないのだが…。
「ありゃ、違ったか…悪い、学者はヘンなところに引っかかるもんなんだ。すまんな」

「いやいや。面白い話だったけど。ねえ？」
「そうだな。今度サウザムランドを訪れた時の話の良いタネにもなる」
　あごを撫でながら、クモキリヤ。
「ルートセラーのあんた達には通じるものがあるかも知れんな。そうそう、こんな話もある。子供が生まれると枕元に小銭を何枚か供えるんだそうだ。これは今でもその村でよく似た風習として残っている。実際の小銭ではなく紙に書いた銭を使うんだけどな」
「なんだろ、将来うまく商売できますように…とか？」
「お金に困らないように、じゃないんですか？」
「そういうのもあるかも知れんのだが、小銭は繁栄の象徴ともとれる。その子供の未来が栄えますように…と、まあ、そういう親心みたいなもんもあるのかも知れんのさ」
「へー」

　…小銭、かあ…