TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[3-1]

　3: 漂泊のルートセラー

　…おーー…
　ごった返す大通り。何の計画もなさそうで、しかしどこか画一感のある店の並び。
　…ひっさしいねえ…ビルマコッチャ
　そこかしこに馴染みの店がある。しかしこの間来た時とはどこか違っているようなそうでもないような。また、いつの間にかあったはずの店がなくなっていて…そこは別の新しい店になっているのだけど…でもその見たこともない店もどこかで見たことあるような…？
　…ホンっと不思議な町やねえ…

　セントレランドの中ほど、シポルニアス王国の中にあって相応の自治権が与えられている問屋分岐点。この町のド真ん中に東西大街道と南北大街道が交わる一大交差点を作る予定だったのだ、しかし占いや俗信のお告げで別の場所になったのだ、とされているが…。
「なんかそういうのもありそうなのよね、ここ」
「いかにも。何でもアリでないものはない、だからな」
　実際にその交差点はここより北東にある。そしてここ、ビルマコッチャの大通りはその交差点を迂回するように両大街道を結ぶバイパス、そのものになっている。交差点よりも栄えている分岐点、それがこのビルマコッチャなのである。

　「問屋分岐点」その名が示す通り問屋、つまりは各地から集まって来た物資を卸す「問屋」が多いイメージがある。
　実際、ほとんどの店がそういった仲買人や各地生産者から買い付けたり買い上げてきたりする商品を扱っている。ここからさらに各地の店舗や業者や小売店に送り込まれていく、ということである。そのためシロウトお断り、プロとプロがしのぎを削る火事場鉄火場、という目で見られたりするが…そういう面ももちろんあるが…その枠に収まりきらないのもこの町である。
　こじんまりとした個人経営あるいは父母息子娘だけの家族経営の商店、なんてのも相当数存在している。そんな店の中にはそれこそ知る人ぞ知るニッチなマニア向け商店だったり…大手の商店でも到底太刀打ちできないような品揃えを密かに誇る店もあったりするのだ。

「…うーーーむ…」
「どうした？」
「…いつも行ってる店なんがやけんどねえ…」
「なんだ、行きつけの店の場所を失念したのか？　おぬしらしくもない」
「いや、そうじゃなくて…」
　…大通り三つ目の曲がり角を左で…ぼろっちい屋根の家の脇を通って井戸のある広場に…

「あう」
　やっぱり迷った。井戸が、ない。なくなってしまったのではなく恐らく最初から井戸なんかない広場に出てしまう。丸くぐるっと切り取られたような広場に、大きな木が一本だけ。周りに店もあるが、全て外向き。つまりはここは裏手のスペースということで、恐らくはゴミ捨て場か何かなのだろう。頑丈な木の箱が大木を囲むようにいくつも並んでいる。
「いっつも迷うのよねえ…マルガレーテの店」
「なんだあの店に行きたいのか。それならこっちの通りのはずだ。ウム間違いないであろう」

　……

「ウム」
「うむ、じゃないでしょ、あんたもやっぱり迷ってんじゃないの！」
　今度の四角い広場に井戸はあるが、目印の一つだった平べったい石もない。そもそも枯れ井戸で…草ぼうぼうに朽ちてどれくらい経ってるかも分からない。周囲は普通の民家になっているようである。
「ところで…」

「あんた、大丈夫？　息してる？」
「ふふ…ふふ…ふふふ…」
「まあ、強行軍であったからな。疲れているのであろう。今日はそこそこ良い宿でもとるか」
「あー、まー…仕方ないか、いつもは知り合いのとこにやっかいになるんだけどね…さすがにこのコにゃ無理かな、そういうのは…」
「いや、ふふ、そうじゃなくて…ふふ…」
「どしたの？　ホントだいじょ…」

「あーっはっはっはぁ！　なんすかなんすか、この町！　あーーーーーくっそ、こんなとこなら前から来ときゃ良かった、すげえ、すげえ、すげーですねえ、このビルマコッチャ！　サイッコーじゃないっすかあ！」