TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[3-4]

「ああ、ミナハかあ…」
「うむ。ミナハだの。薬店では世話になっている」
「ミナハ…」
　はて、と腕を組んで考え込む考古学者。
「コトバの響きからするとたしかにサウザムランド辺りかな、とは思いますが…しかしやはりイルトンランドとはあまり結びつかないような…？」

「ミナハ、ってのは薬店の名前にもなってるのよ。それも複数店舗経営してる」
　とりあえず、ということで軽食を頼んである。この店の昼の名物でもあるサンドイッチ。
「薬店で複数店舗って…ノスクルバーグのハオマラグループみたいなもんですか」
「あれはチェーン展開してるじゃない。支店の権利とノウハウを売って、さらに独自販路にも参入できる」
「しかしミナハは完全ではないがほとんどが一族経営でな。たしか…周辺の都市に五店舗くらいあったはず」
「あれ？　三つじゃなかったっけ？」
「うむ？　なんかこの間一つだか二つだか増えた、とかそんな話を聞いたように思うのだが…」

「店舗は四つ、ございますよ。この間新人店長が誕生しましてね。ゲルンタージュに新たにできたのでございます」
　そこへオワネスが皿に料理を乗せてやってくる。
「お待たせしました。シムシュのサンドイッチでございます」
　本来はディナー用の串焼きであるシムシュ。ライスやパンを一緒に食べる、結構重めの料理なのだが…昼用のサンドイッチは軽めの味付けと量になっていて評判もかなり良い、とのことである。
「うぉ、肉ですか…」
「おいしいわよお、ま、食べてみて？　スパイスの使い方が独特なの」
「…なるほど…いただきます」
　見た目はタレ漬けの焼き肉を葉物と挟んだだけ、には見えるのだが。
「お、なるほど…これはこれは…」
「まこと香辛料の使い方よな。これはなかなか真似ができん」
「あら。あんたも試してみたの？」
「あんたも、ということはおぬしもか」
「それっぽいスパイス組み合わせてみたけどねー…ダメだった」
「それがしも、な。やはりこの味は再現できん」
　と、こちらもサンドイッチを頬張る。

「で…ミナハなんですけど」
　こちらは二つ目。
「コレコレ。これもミナハの一つ」
　サンドイッチを指して見せるドリス。
「この店はサウザムランドはヤサン地方に出自を持つミナハ一族に大きな影響を受けてるの。カラドリアってさっきのお茶の飲み方からこの料理から内装から、ミナハとは切っても切れない繋がりがあってね…ここの店長さんもそう。ねー！　そうだったよねえー？」
　テーブルを拭いていたオワネスが、ニコ、と笑みを浮かべて見せる。
「親族には何人もミナハとの関係者がおりますよ。それこそ薬店の店長経験者から副店長格まで、色々ですな」
「ね？」
「………」
「どうかしたのか？」
「いえ。サウザムランドのヤサン、ってさっき言いましたよね。ヤサン、ヤサンって…たしか…」
「砂漠の真ん中じゃなかったっけ？」
「昔、近くまで行ったことがある。いやあれはたしかになかなか面倒な旅路であったな」
　と、ルートセラー二人はあそこはどうだった、いやああだった、とそんな話になっているのだが…。

「店長さん」
「はい？」
「店長さんは…知ってるんじゃないんですか？　ヤサン地方の今」
「ああ、存じておりますよ」
　静かにテーブルを拭き続ける。
「伝承としては残っておりますが…もう誰も住んでいない、砂漠の一部になってしまっている、ということでございましょう…？」