TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[3-7]

　…うわ、結構激しくなってきちゃったなあ…。
　降り始めの時に武士っぽいルートセラーに『濡れるのが嫌ならこっちに入るか？』と誘われたのだが、なんとなく断ってしまったのだ。…一方隣に座っているお気楽そーな女性ルートセラーは、あー、雨か…あは、降ってるねえ、いいねえ、てな顔で鼻歌でも歌いだしそうな表情である。
　…止まない雨はない、か…。

　…まあ、たしかにそうなんだけどねえ…。

　雨粒はそこらの木々から道へと、背の高い岩肌から背のばらばらな草へと、様々な音を立てて降りゆく。その音は一つの音ではない。かと言って合奏しているわけでもない。それぞれがそれぞれに音を立てているだけ。
　…なんか、思い出すなあ…。
　そう、多分、私は…雨が嫌いだったんだ。

　父は知らない。母は…なんか顔の輪郭の印象しか覚えていない。
　一番最初の記憶は妹とどっかで手を繋いでいた、ような気がする。その時の手の柔らかさを覚えている、ような気もする。その時の妹はセドナだった、はずなのだが自信はない。もちろん彼女に聞けるはずもないし、尋ねるつもりもない。
　そのうち孤児院か何かの施設に入った…はずなのだがこれもあまり覚えていない。
　はっきり覚えているのは幼年学校に入った時だった。そしてその時にも雨が降っていた。

　幼年学校というのは各地にある幼い子供が学習する施設。各地にある、と言っても全世界で統一されているわけではないので地方によってそのシステムはばらばらだし、別に通わなくても問題ない、と言えば問題ない。私の時は…たしか学費は無料だけど他のなんだかんだはそこそこお金かかるから、極端に貧乏な家庭の子は入ってこなかった…とかそんなものだった、はず。
　じゃあ私のとこはお金があったのか、そういう施設だったから、なのか…どうだったんだろう…？　くわしいことは今も知らない。
　そこら辺もあまり覚えてない。けど、通っていたのは事実だからどこかにツテがあったのだと思う。
　でも入ったその日に私は学校が嫌いになったのだった。雨も降っていたし。

　…なんでだろう、何だったかな。

　たしか…たしか親の話？とかそんなのが出てきて…もめた…だったかな、そんな気がする。幼い子供が通う幼年学校ではその手の話がどうしても出てくる。だから…嫌いになったんだろう、と思う。
　私は両親を知らない。ましてや父のことは知る気もない。私の父はあちこちに女を作っては子供を生ませてどこかへ行ってしまう、と、そんな男だったらしい、というのは後にセドナから聞いた話。だから雨とその奔放でいいかげんな父をどこかで結び付けて…。

　…アレ？　なんかヘンじゃないか？

　入学の時には私、父のそういうとこまでは知らなかったはずで…でも入学の時には雨が降ってて…時間と事情が合わないな…じゃあなんで雨が好きじゃないんだ？　私？

「…ドリスさん…」
「ん？　どした？」
「ドリスさんは…雨、好きですか？」
「んー…嫌いじゃないよ、別に。雨降ってる時の方が売れることもあるしね。モノによるけど」
「はは。ドリスさんらしい」
「まー、あんまし続くとね。さすがに商品ダメになっちまうこともあるし。ん？　なんだったら火でも起こそうか？　じめっぽくなってきてんのなら乾燥させるから…」
「いやいや、そんなんじゃないんです。ただ…」
「ただ？」
「なんか私、雨が好きじゃないらしくって…なんでかなあ、と」

「んー…」

「なんか、ただ、そういうもんじゃないの？」
「そういう…もん？」
「うん。なんかそういうのってあるもんだよ。なんか好きー、とか、なんか嫌いー、とか」
「そういうもん…ですかね」
「そういうもん…だよ」

　そして雨はまだ止まない。