TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[3-20]

　は、と息を飲む女性。
「いや、いや…失礼した。そこの御仁は…その、知り合いでな。…いや…失礼した」
「あ、なんだ知り合いだったんですね」
　このビミョーな空気を察しているのかいないのかよく分からない考古学者殿。
「うむ、うむ。そうこちらはアザミナ殿と申されてな、それがしと同じようにルートセラーを生業としておって…」
「我はアザミナ、という本当の名は…」
「分かってますって。なんか事情があるんですよね？　それより…良かったらですけど…ふへへ…その腰の脇差…ちょっと、見せてもらえませんか？」
「これをか？　いや、大した品ではないのだが…こんなものを見たいのか？　変わった…いや失礼…」
「あ、私はルチア、ルチアーノ・エンコって言います。こっちがドリスさんで、ドリス・アンフェルンさんです」
「…どうも」
　軽く頭を下げて見せるが…なんとなく視線を合わせづらい。
「いや、済まない、気を使わせてしまったみたいだな…いや、真に済まぬ…」

　…うーん…やっぱりアレ関係か…

　立ったまでは何なので、ということで簡易的に設置？してある椅子とテーブル（もちろんあまりキレイな品ではない）につくことになった四人。なお、ルチアはアザミナの脇差を両手で捧げるように持って「ほほう…」「ほー…」「ふっへへっへ」とご機嫌の限りである。
「べ、別に抜いてみても良いのだが…」
　ややヒキ気味のアザミナ。すると
「いえいえ。私は拵え、つまりは刀剣の佇まいが、それは、もう好物なだけで…ふえっへへへ、いやしかしいいお品ですな、これは…いや、眼福でございました。ありがとうございます」
　と、丁寧にお返し申しあげたりしている。これにもやや拍子抜け、といった印象のアザミナである。
「あ、ああ…もう良いのか…」

「ところで…アザミナさんはやっぱりアレですか隠密ですか？　って…尋ねない方が良かったですかね？　ドリスさん？」
「まーたこの子は…ストレートにいきよんねえ…」
　軽く頭を抱えて軽く睨んで見せる…ドリス。
「私をなんだと思ってるんです？　歴史のプロですよ？　プ・ロ？」
「はいはい。まあ、いずれははっきりさせておいた方が良かったがやけんど…ねえ？　クモキリヤさん？」

　アザミナとクモキリヤの反応は同様のもの。…一瞬だけ肩の先が反応して、お互いにかすかに視線を合わせる。そして…かすかな逡巡の後に…小さなため息。
「…もうそういう時代でもないのだが、な」
「…そうだな。もうそういう時代ではないのだが…な？」

　ちらっと周囲を見回すアザミナ。
「いかにも。我々はとある筋の命を受けて諸国を廻る者。…と言えば聞こえはいいが…実際は体よく故郷を追い出されただけ、ということでもある」
「命を遂げれば村にも戻れましょうぞ」
「ふん。クモキリヤよ、今さら何を申すか？　あのような命など…かなえることはまず無理、というものではないか？」
「あー…そういうことなんやね…」
「ドリスさん？」
「えっとね…一応ということで村の名前とかは伏せるけどさ、多分…口減らしってことね？」

　それを聞くと、ふふ、と笑みを漏らすアザミナ。
「やはりルートセラーは侮れんな。熟達の行商者は特に…な？」
「御意。…気づいておられたか？　ドリス殿は？」
「あのね、今どき偽名使ってどうにも他人近づくなオーラ出しながら営業するルートセラーなんて、まずいないって。いや…いることはいるけどそういうのは大抵はヤバイ事情持ちって相場が決まってるってもんよ」

「我々の故郷の詳しい事情まではさすがに勘弁して頂きたいのだが…」
「うん。それは、まあ、別に、ね？」
「アザミナ様、恐らくドリス殿は…」
「ああ。分かっておるのだろうよ。本当の事情、というものをな」
　そしてドリスに正面から向き直る。
「ご配慮、感謝する」
「いえいえ。大したころじゃありませんって。…てー、そういうことだから、あんまし他人を詮索すんじゃないよ？」
　何やらぶつぶつ言いながら考えていた考古学者は…その一言で、はっ、と我に返る。
「え？　えー、まー…私にも思うところいくつかありますんで、まー…なんて言うか…お互い様的なもんですねー」