TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[3-22]

「うむ。たしかに…お互い様だ」
　微妙に口の端がひきつったような笑み…なんだか自虐っぽくも見える…を浮かべるアザミナ。
「名前だけの血筋。名前だけの…名前だけ、か。ふふ…」

　…ホントはここまで混ぜっ返すつもりはなかったがやけんど
　そもそもクモキリヤからしてドリスは最初から疑って？いたのである。…ルートセラーは諸国を廻る職業である。最近はそこまで厳しくはないところが多いが、中には国に入ることを拒否されたり（しかもかなりの恫喝付き）所持品を全て改められたりされることも時たまあるのだ。
　件のヴァンシュタイン公国なんかいい例である。前情報だけでもドリスの行きたくない国ワースト３に入る。
　これが昔話となるとかなりえげつない話も残っていたりする。例えばルートセラーはその職業上、どうしても帳簿をつけることになる。しかしその帳簿をつける姿が「他国の隠密が何か調べているのではないか？」と疑いをかけられ、拷問にかけられ命を落した者も少なくなかった…と。そのため人前では帳面を出さない・帳簿も付けない、というルートセラーは今でもかなりの数いたりするのだ。

　ただし。クモキリヤが本当に隠密なのかどうかは分からない。
　…それに、なー
　ホンモノならもうちっとうまくやるんではないか、というのがドリスの正直なところだったりする。…明らかにバレバレやん
　同郷っぽいアザミナにも同様の感触を得ている。というとは…多分隠密に見せかけた、「どこそこの秘密を探ってこい。成功するまで帰って来るな」的な無理難題吹っ掛けて追放されたんじゃないか…とか勝手に思っていたらその通りだった、と。
　…なんだかなあ…

「じゃあ、アザミナさんもルートセラーに？」
「うむ。今は、な。実は我は当初ミノマリナへ行ってサポーターになろうかと思っておったのだが…」
　…え。いきなりやねえ
「ミノマリナってあれですかマイノス王国の観光迷宮ですか？」
「…あんたねえ…」
「いやだって実際に観光やってるじゃないですか、一階までですけど。アレ？　二階まで行けるんでしたっけ？」
「あそこも結構特殊なのよ。ウラの稼業と言うか実際には結構深部まで入ってるのが結構いるんだし」

　ミノマリナ迷宮と言えば一部の探索マニアには絶大な人気を誇る大迷宮である。その一方で観光にも力を入れていて、地下一階から二階くらいまでなら案内役が付けばツアーや個人でも潜ることもできる。もちろん危険もほとんどない（あるとすれば自分でスっ転んで大ケガ、とか））、正に観光迷宮である。
　地下一階二階くらいなら…まあ、問題はないだろう、ということである。そのためマイノス王国では警備隊を常駐させていて三階以下への侵入を固く禁じている。禁じている、のだが…そもそもが迷宮とともに歩んできた国でもあるのだ。当たり前だが昔はそんな規制なんぞも何もなく、好き放題人が入っていって…何人も帰ってこなかった。それが当たり前だったのである。
　それがある時よその国のおエライさんが迷宮で命を落す、という大失態を犯してしまう。その頃までには何度も「迷宮封じるべし」的な論調は出ていたのだが…これが決定打となって、国が管理して出入りを規制するようになった、ということになっているのだが…。

「地下何階かには町だってあるって話だし」
「…行ったことあるんですか？　ドリスさん？」
「まさか。知り合いがね、ちょっと潜ったことがある、って。…で、そのウラの案内役をサポーターって言うんだけど…」
　アザミナの方を向き直る。
「たしかサポーターってなるのに株が必要なんじゃなかったっけ？　世襲制ってわけじゃないけど、それなりに厳しいルールがあったような…？」
　ルートセラーのように薬協行ってサインすればそれでOKてなわけではない。

「いかにも。それで断念したのだ。聞けばよほどの間柄でないと株は譲ってもらえないらしい。…なかなか難しいようだな、よそ者には」
「ああいうとこは結構排他的だもんねえ」
　迷宮の深部に潜るのは違法なのである。いくら公然の秘密とは言えよそ者にはやすやすとバラさない。
「迷宮闘法なる秘伝の技がある、と聞いて習得したかったのだが…残念であった」
　ドリスでも聞いたことくらいはある。何でも狭い迷宮内での格闘に特化した技術らしい。跳んだり走り回ったりの派手な技はほとんどないが、短距離での打撃と豊富な関節技が特徴らしい。さらに独特の身体運用法があって、例えば高所から落ちても平気、とか暗闇でもすぐに目が慣れる、とか。…達人になると迷宮の壁を走れるようになる、とかそんな話もあるにはある。

「アザミナ様は相変わらずですな。今でも修練は怠っておらんのでしょう？」
「当たり前だ。…クモキリヤ、お主はどうだ？　見たところお主も修練を欠かしてはいないようだが…？」
　…へー、そんな風に見えるんだ
「ははは。…それがしは、もう…いや、詮なきことですよ…」