TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[3-28]

「え？　ならそれでいいんじゃ…って…もしかしてそこまで」
　読み込んでなかったの資料、と言いかけて言葉を飲むドリス。…何せアザミナが顔真っ赤にしてぷるぷる震えているから。もちろん恥ずかしさから、というのは言うまでもない。
　…あー…なんか大変だったんだー…このヒトも…
　たぶん分かりにくい、読み慣れない資料を一生懸命読み込もうとして…結局無念のうちに挫折したんだろうなあ、と。

「し、しかし学者殿もこれはもしかしたら大発見かも、とかそういう風に言っておったではないか？」
「そりゃあ、タチミカ製でも新古代は新古代、ってことですよ。実際、数はすっげー少ないんです、タチミカ製も。真製の新古代硬貨…アハ・マーレとかシッポスとか、そういうのが超レア中の超レアだとしたら、こっちは超レア中のレアってそんなとこです。それでも十分すごくないですか？」
　…例えがよく分からん
　三人のビミョーな表情を察したのか
「アハ・マーレてのは一地方の名前で、シッポスは村落の名前です。今のシポルニアス王国辺りに、たぶん、あったんじゃないかなー…とされてるやはりマボロシの地方や村落で…独自に硬貨を作ってたことが知られています、とかそんなもんで…」

「まあ…どっちにしろ依頼通りってことね？　そのカントカ製の硬貨を手に入れられれば」
「ま、まあ…そうなるな。うん、そうなるか…」
　今さら資料を読み直していたりするアザミナである。顔面汗だらけだが。
「しかしそう簡単にコトが運ぶのだろうか…？　考古学者殿によればオークションは、ちと厄介だと言うではないか？」
「そりゃあ、まあ。バクチですからね。バクチ。しかもそれが真物かどうかも分かりませんし…」
「クモキリヤ。それに…ドリス殿、学者殿」
　思いつめた表情のアザミナ。大きく頭を下げる。
「頼みがある。カマラの古銭市場に…同道してはもらえないだろうか？　もちろん報酬は山分けにする。それ以外でもできるお礼はなんとかしよう。約束する。だから…頼む！」

「もしかして、だけどさ。アザミナさん」
　そんな彼女の肩に手を軽く置いて、椅子に座らせる。
「…初依頼？」
「んぐ、ぐ…その…初、ではないのだが…これまで、どうも、な…」
「アザミナ様は裏表のないお方ですからな。どうにもうまくいかない依頼が多かったのでしょうな。…さて、お二方はいかがいたしますかな？　それがしは無論同道いたしますが…？」
「いかがも何も、ねえ」
「そうですねえ」
「頼む！　我とクモキリヤだけでは…その…無理だ…」
「ま。乗りかかったなんとやら、てとこね。あたしは別にいいわよ、無償でも。市場に面白いもんでもありそうだし」
「そうですね。私もご一緒しますよ、興味ありますし。何しろこの古銭市場、一見さんお断りとかアヤシさ満載ですしね。この資料に挟まってたこの割符がないと入れないとかそんな風になってるんですよ」
　資料の中ほどに、丁寧に紙でくるまれた中指ほどの大きさの包み。
「なん…だと…」
　この人は知らなかったらしい。改めて包みをしげしげと眺めていたりする。
「お宝、ありそうですねえ」
「んじゃあ、なおさらじゃない。決まりね。決まり。明日にでも行けるのかな？」
「その辺は確認が必要ですね。薬協ならそういう情報もあるんじゃないですか？」
「おっけ。じゃ…そっちはあたしが明日調べてみる。あんたはどうする？」
「私も一緒に行きましょう。何か別口の情報があるかも知れませんしね」

　ではそれがしとアザミナ様は物資の調達や調整をするとしよう、とクモキリヤ。ここは古い町だけに古い技術もあるのではないか、と。
「…調整？」
「ウム。それがしのはともかく。アザミナ様のものは真剣だからな。…その状態では真の力は発揮できませんぞ、アザミナ様」
「面目ない」
「んじゃあ…二人はその用事と、消費物資の調達をお願い。二手に分かれて行動ってことでいい？」
「心得た」

「ところでさ…ホント結構偏ってるよね、この資料」
　ドリスも改めて見てみたのだが…。
「そりゃそうですよ。だって、引用された論文って局長の論文なんですよ」
「…あー…なんか分かるわー…それ…」
「あの人こういうニッチなの書かせると右に出るのがいないってか何と言うか。まー、学者なんてそんなもん、ですかね？」