TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[3-30]

「しかし…これはやはり良い木だな。存在感が違う」
　ごつごつとした幹の手触り。軽く撫でてみると、意外とさらりとしている。
「左様ですな」
　クモキリヤも撫でてみる。しっとりとした感触は確かに悪くない。
「この周囲を探してみましょうか…？」
「そうだな。これだけの大木が育つ地だ。さぞかし良い水が湧くのでは…うむ？　あれは…？」
　指さした先には看板が一枚。多少古ぼけて見えるが、そこには何度か見たことのあるお馴染み？の紋様が。およそ武器を携える者なら知らぬ者はいないだろう、とある紋様が彫り込まれてある。
「あれは…ほほう…この町にもあるのですなあ…」

「いらっしゃいませ～何かお探しですか～？」
「………」
「うむ。まずは少々武器を見たいのだが…構わぬか？」
「かしこまりました～ではお決まりでしたらお声がけください～」
　と、語尾を持ち上げるような口調のまま店員は去っていく。
「おい…クモキリヤ」
　袖をこそこそっと引くアザミナ様。
「何でございましょう？」
「ここは…何なのだ？　看板を見るにてっきり武器屋かと思っておったが、中身は全然異なるではないか？　どう見てもやや特殊な飲食店にしか見えんぞ？」
「はは。アザミナ様はご存じありませんでしたか。ここはアルマルマ武器防具店、と申しましてな…」
「何？　あ、あるー、まにあ？」
「アルマルマ。あ・る・ま・る・ま、にございます」
「ふん。面妖な。…このあーる何とかは武器屋で間違いはない…のだな？」
「左様で。南北大街道沿いに５、６店舗は出店しておる、と聞いております。いやまさかこんな町にもあるとは…侮れんもんですなあ…」

　アルマルマ武器防具店。最近になって一種のチェーン展開してきている武器防具屋である。
　本店はビルマコッチャにあるともノスクルバーグにあるともされている。詳細は不明だが元々の店主は武器の目利きに優れた一族の出だった…らしい。その息子だか娘だかが跡を継いだ時にとある商業一族の一人と出会い、意気投合し、お互いの知識と知恵を生かして商売としてこういった店を始めた、とされている。実際、クモキリヤの言う通り南北大街道沿いに６店舗の支店まで出している。
「ホントウに武器屋なのか…？」
　アザミナが疑うのも無理はない。通常、武器屋と言えば薄暗い店に武器防具が静かに並んでいるだけ。カウンター一つの家族経営の小さな店が多く、賑やかとはほど遠い存在でもある。しかしこの店は…。
「…騒がしいな、まったく」

　店としてはそこまで広くはない。カウンターは三人同時に対応できる、とかそんなもの（それでも結構広い方だが）。それでも店内はカウンターだけではなく、そこかしこに武器や防具が置いてあるため客は好きにあれこれ見て回ることができる。いや、ただ置いてあるのではなく見やすくディスプレイされてあるのだ。
　例えばロングソード。大抵の武器屋なら一山いくら、といった感じで安価なものは山積みにされていたりするが、ここでは長さ・重さ・切れ味がそれぞれ示されてきちんと並べられてある。もちろん、価格も内容によって細かく設定されている。
「鞘もご自由に選べます…だと？」
「アザミナ様。こんなものもありますぞ」
　長さや重さはそれなりだが、切れ味がゼロ。
「なんだこれは？　刃引きの剣だと？　こんなもの武器ではないではないか…？」
「これは見せかけ用にございましょう。それがしの竹光と同じにございます。一応、ルートセラーも武装できない建前になっておりますゆえ…」
「そうか。中には武器を使わぬ連中もおるのだな。そういった連中にも用立てている、ということか…」
　いわゆる道中差し、ということでカタチの上だけ武器を帯びるケースというのは結構ある。別に護衛を頼んでいたり、そこまで危険のない道を行く時など。それでも見た目上だけでもちょっと武装を…ということもある。そんな時は中身を非金属に変えてしまうか刃を潰すしかないのだが…それはそれで結構手間がかかるものではある。

「なるほど。よく考えたものだな。…こうして見るとなかなか悪くはない品揃えではないか？」
「左様ですな」
　そこへ先ほどの店員がやって来る。なお、格好はどこぞの豊家の召使いか、といった印象。
「お決まりになりましたか～？　ただ今ですと～サウザムランドホウチャ地方の短剣なんて～オススメですよ～？」
「いや。実はな、それがし達は武器を求めに参ったのではない。これなるお方の腰のものの調整と研ぎを、な…」
「承知いたしました～では少々拝借してもよろしいですか～？」
　とびきりの笑顔で両手を差し出してくる。少し、戸惑ったアザミナだったが。
「う、うむ。ではよろしく頼む…」