TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[3-34]

「なんだ。あんたらも古銭に興味あるってか」
「あんたらも、って…」
　周囲を注意深く見回すドリス。今は昼も過ぎているから宿泊客もいない。
「ここに来るのって…ほとんどがそっち関係ってこと？」

「半分くらい正解ってとこだな」
　タバコを紙で包む作業を、ふと、止めて。材料のタバコの葉を丁寧に箱に戻す。
　…ふむ
　手つきが…違ってきゆうねえ…？

「カマラは元からそういう町だったってことだ。そこへ色んな連中が飛び込んできて…今のカマラができていった、ってとこだな」
　それはどこの町でも似たようなもんでは…とは思うが、ここは黙って話を聞くことにする。
「エドガーさんも？」
「ノースビルの旦那はまたちょっと立ち位置が違うかな」
　…なるほど
「あの人もよそから来てる。正確にはあの人のじいさんが初めてこの町にやってきて、それからの付き合い、ということになるがな」
「結構長いですね。三世代？」
「いや。じいさん…ポーじいさんがくたばる前に『俺の後任だ』って連れてきたのがエドガーの旦那だから二世代ってことになるか」
「ふむ？　じゃあ支店長みたいなもんだって言ってたアレは…？　本店がノスクルバーグにあるって」
「ああ。ポーじいさんの兄だったか弟だったか、とにかく親族が当時ノースビル商会の本店の責任者だったんだと。でもそれだと自分はいつまで経っても偉くなれない。だから一念発起してカマラまで流れてきた、とかそんな話だったな」
　血族同士のいざこざはどこの町でも時代でもあるものではある。

　オヤジの話によれば、このポーじいさんというのは変わり者だったらしい。
「何だろうな、金離れがいいって言うのかね」
　景気よくカネをばら撒く、誰にでも奢る、とかそういうのではなく。地道に稼いだ金を使う時は大きく使う。それは町の道路の修繕や古くなった屋敷の改修費用なんかにも使われた、という。この町にだって議会もあって町民から選出された議員もいて、徴収された税金も運用しているのだが…それとは別に私財を充てる、という人だったらしい。
「篤志家ってやつですね」
　一方で口も素行もあまり良くないし、酔って乱暴をすることもあった、という。それでも町の人気者になっていった…もちろん全員から好かれていたわけではない。従来の保守的な議員達や古くからの団体からは嫌われていたし、同年代の友達はほとんどいなかったらしい。

「こっちで嫁さんももらって子供もできた」
「へー…あれ？　じゃあなんで…」
「くわしい事情は知らんがな、奥さんと子供はノスクルバーグへ移っちまった。ポーじいさんも一緒についてったんだが…戻ってきた時にエドガーの旦那も連れてきた、ってわけだ」
　それ以来ポーじいさんとエドガーは二人でカマラで暮らしていた、という。エドガーが今のようになる少し前、まだ少年っぽい面影のあった頃、だったらしい。
「それからは悠々自適ってやつ？」
「それがなあ…」
　ふとしたことから体調を崩し…あっけなく亡くなってしまった。エドガーが成人するかしないかくらいだったらしい。

　葬儀（かなりの規模になった）を済ませた後、エドガーはカマラを離れる。しかし数年ほどでひょっこり帰ってくる。
「そこからが旦那の旦那たるゆえん、ってやつでな」
「なるほどね」
「何が…なるほどなんです？」
「いや、そうね…この町にとって縁が深い人になってる、とかそういうもんじゃないの？」

「そうだな、そりゃあいいな。たしかに今はこの町にとっては縁の深い人になってるな。あー、悪い意味じゃねえぞ。もちろんそこまでいい意味でもないがな」
　と、がっはっは、と豪快な笑い声。
　…そうことになりゆうがね…

　ルチアは、はぁ？　という顔になっていてよく分かってないようだがドリスにはなんとなく分かっている。
　…顔役ってことやね
　町や村での実力者ということである。どちらかと言うと非公式の意味合いが強い。真の意味での実力者。