TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[3-37]

　小さい女の子が泣きだしてしまったので、ドリスがファイーナ呼んでちょっとした芸見せたり（もちろんファイーナはイヤイヤやってた）してなだめたりしたのだが。しかしお兄ちゃんがさらにかうかうものだからさらにややこしくなるな…てなとこで二人の後ろにいた三人目のおとなしそうな子が
「…ダメ」
　とお兄ちゃんを睨んでしまう。すると収まってしまうのであった。
　…どんなパワーバランスなんやろうね

「お祭り…か」
「そうだぜ。毎年二回、ここで今姉ちゃんがやったみたいにぐるっと歩くんだ」
　広場の端から端まで。ぐるっと指していく。
「たのしいの、とっても、たのしいの」
「そっかー、楽しいの、良かったねえ
「…屋台も、広場の周りに、でるし」
「なるほど」
　…そういうのはどこの地方でも変わらんもんやね

「歩くのは…四方？」
　…ん？　ルチア？
「…しほう？　しほうって…何？」
「ああ、ごめんね。四方ってのは基本的に四か所を抑える歩法のこと。三か所では足りないし五か所では多すぎるし」
「姉ちゃん…？」
　さっきまで何やらぶつぶつ言いながら敷石を調べていたルチアが…すっく、と立ち上がる。
　…あー…スイッチ入っとうね、こりゃ

「セントレランドは中央の土地」
　敷石の角をそっと撫でる。何度か替えられた痕跡があるにはあるが、それでも角はかなり丸くなっている。
「それは他の地方からたくさんのモノが入ってくることを意味している。モノの集積地」
「モノって…ショーバイってこと…かよ？」
「物体だけじゃなくて…情報…文化…そして…宗教…ふふ…ふふふ…」
「…あの、なんか、コワイんですけど」
　おとなしそうな子がそっとドリスに耳打ちしてくる。…そりゃあ、そうだろう。さっきまでにこやかだった人間がいきなりぶつぶつ言いながら地面這いずり回り、さらに目つきがアヤシくなって口調まで変わってしまっているのだから。
「気にしなくていいよ。別に取って喰われたりしないから。まー…世の中にはこんな人間もいるんだ、ってことだけ思ってもらったら嬉しいかな」

　明らかにヒいている兄妹。
「宗教とは何か？　一つには救済。一つには喜び。一つには競争。そう、他の宗教と争って時には滅ぼし、時には仲間にする…ふふふ…」
「あー、もしかして拝木信仰と拝石信仰のこと言ってるー？　センセー？」
　にやにやとドリス。
「拝木信仰と拝石信仰。結構ヤバかったんじゃないの？」
「そう。ヤバかったんです。恐らくはここもその結末の一つ。大木の周りを石で覆う。石による大木の封印」
「でもこれは大木じゃない、でしょ？」
「そこです。これは過去への郷愁の現れとも言えます。拝木信仰が廃れたこの町で、しかし今でも拝木信仰を抑える拝石信仰のお祭りが…」

　…なるほどね
　時期的に拝木信仰が先で、そこへ拝石信仰がかぶさってきた、と考えるのが普通なのはドリスも知っている。拝木信仰は古の信仰として今はほとんど知られることもなくなっている信仰の一つである。後進とも言える拝石信仰が駆逐していった、というのもまたよく知られている話ではある。
　…とは言ってもねえ
　その拝石信仰だって今現在は「信仰」という立場とはまたちょっと違った位置にいる。この地方でのほとんどが石造りの建物、とは言ってもそれは信仰から来ているというわけではない。木材よりも石材の方が材料として調達しやすい上に風土に合っていた、ということに過ぎない。

「ところで…」
　ぽん、と軽くルチアの頭をはたく。
「あう」
「やりすぎ。怖がってんじゃん。もう…みんな、このお姉ちゃんがなんかおごってくれるってさ。お菓子でも買いに行こうか？」