TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[3-41]

「でも…」
「やめないかい！」
　ことことこと、と軽く床を叩く、いや、つつくような高い音がする。奥の暗がりから姿を現したのは…背筋こそぴしり、としてはいるものの杖に体重をあずけてゆっくりと歩く老婆だった。
「ったく…客人の前だってエドも言ってんだろうが…」
　そこらの椅子を引き寄せる。すると…背後に影のように付き従っていた少女が、ささっと慣れた様子で椅子の向きを変えて老婆の腰をそっと下ろさせる。
「ありがとうよ、ジニア」
　軽く微笑み返したその顔は…先ほどの三人組の一人。無口な少女である。

「アラン。ルメアは？」
「寝かせてきたよ。ここに来たいってグズってたけどな」
「その方がいい。今日は…あまり空気が良くないからね。さて…」

「悪かったね、客人。あたしゃメリ・アーニッヒ。ここではメリばあさんで通ってる。見たところ…」
　ぐるっと四人を見回す。その目は、深くて鋭い。
「鬼姫に千人打ちは本当だねえ。しかも…学者さんかい？　こんなとこに珍しい。それによくおいでだ、ルートセラー？」
「どーも。アーニッヒさん。でもここには他にもルートセラーいるけどー？」
　わざとらしく、へら、と笑って見せたりする
「どうにも喰えないねえ、あんた。メリばばあでいいよ。名前聞いてもいいかい？　ルートセラー？」
　やはりわざとらしく辺りを見回して見せたりして…大げさな仕草で自分の鼻を指したりする。
「ドリス・アンフェルン」
「…ドリス、ドリス・アンフェルン、ねえ…？　ほう…？」
　エドガーをそっと手招きして、少し、耳打ち。
「失礼した。知り合いの知り合いにちょっと似たのがいたもんでね。で…学者さんはどなただい？」
「えーっと、ルチアーノ・エンコです、ニンダスで考古学者やってます」
「ほう？　まさかダブリナール大学のマッドなルチアって…あんたのことかい？」

　…は？

「…何それ何その面白ネーム」
　…当のルチアは…頭抱えてうずくまってしまっているが。
「あんの…クソ局長め…どこで広めやがった…」
「クソとは言うねえ。なに、カレンとはちょっとした知り合いでね。どこだったか…どこかの発掘現場で昼夜問わず作業続けてぶっ倒れて気ぃ失いかけても這いずり回りながら作業続けようとした、ってそんな話じゃないかい？　関わってた人間全員から呆れていいんだか敬っていいんだか分からない、って噂になったってねえ？」
「それでマッドってか。なーるほど、ねえ…」
「だから…やめてください…そんな目で見ないで…」

「で、本当の用件は鬼姫の方ってことだね？」
「…うむ」
　一瞬、一瞬だけ腰に手が指先が伸びる。
「物騒なのは仕舞っておくれよ。ここはひとつ…腹を割って真っ正直に話し合いたいものだねえ？　そうは思わないかい？　千人打ち？」
「かような場で昔の名を聞くとはな。それがしも忘れておったわ、千人打ちなどとは、な」
　と、自虐を含んだ笑み。
「大街道沿いの賭場ならこれくらいの話はいくらでも手に入るさ。なあ、アンフェルン？　あんたもそのクチだろ？」
　…おおっと
　名字で呼ばれることが少ないので、さすがにちょっとびっくりしている。…その様を見ながら、にや、と笑みを浮かべて見せる老婆。
　…あんたも喰えんがやねえ…

「最初に謝っておくわ、クモキリヤ。会った時から…あ、いや、あんたの刀が竹光だー、てな話聞いた時からそうじゃないかな、とは思ってたんだけど」
「ほう」
「イルトンランドのシュカイ地方。山奥ってわけでもないけど古街道沿いだったから大街道整備後に取り残され…忘れられてしまった、とされるシラギの村。そこの出身なんでしょ？　二人とも？　違う？」