TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[3-42]

「違わんな」
　意外とすんなりと、アザミナ。
「ここまで来て隠し立てもあるまい。我のまことの名はヨリヒメ・シラギ。婿を取った我が姉はマイヒメ・シラギという」
「あー…やっぱりか」
　ぽりぽり、と頭をかくドリス。
「で…いるとこなくなって他へ出てきた、と」

　それを聞いて。ぐ、と一度息を呑んだアザミナだったのだが。
「ふ」
　軽くうつむいて。それから大きく体を反らす。天井を向くくらいに。
「はーっはっはっはは、はー、はーはっははあ！　これは…良い、良いぞ…はっはっはっはあ！」

　何事か、と振り向く室内の連中。…実はここは言われたほど広い部屋ではなく（それでも建物内では大きな部屋なのだろうけど）３０人入れば上等、実際にはテーブルやら何やら色々モノが置いてあったりするので２０人程でも入れるだろうか、とかそんなもんだったりする。
　そんな中での哄笑。そもそも視線を集めていた彼女だったのだが、さらに注目を集めることになる。

「ああ。それで間違いない。我らシラギの者は背負っていた用がなくなれば問答無用で放逐される。それは昔からの約定だ。違えることは許されん」
　置かれている状況が状況だからなのかも…とドリスは考える。
　古街道の頃には栄えていたが、四大街道成立時にその道筋から大きく外れた集落はその状況によって大きく二つに分かれることが多い。「やや落ちるもののそれなりに活況を維持できる」か「集落の規模や活気が大幅に失われる」のいずれかである。
　前者のケースは非常に稀であり…ほとんどが後者となる。当たり前だが後者の場合、集落が消滅してしまうことも少なくはない。
　その意味ではシラギの村は村を維持できただけでもマシ、と言えるかも知れない。だが、そんな中でもどこかに軋みが生まれてしまったのだろう…人口の増加を防ぐ意味でも主家筋から口減らしでよそへ行ってもらうのである…。
「…姫様…」
「申すな。今の我はもう姫ではない。今の姫は…姉上の子じゃ。上のマキノヒコに下のタマヒメ。どちらも可愛い我の甥と姪よ…」
　…あー、そこまで進んでたってか
　跡継ぎが生まれればさらに用はなくなる。もしその子に何かあれば「姫」に返り咲くこともできるだろう。しかし、それを望むには彼女はいささか優しすぎたのかも知れない。
「今の我はただのアザミナだ。ルートセラーのアザミナだ。ドリス殿、あなたと同じルートセラーだ」
　に、と涼やかな笑みを浮かべて見せる。

「で…千人打ち、ね」
「うむ」
「アンフェルン、こいつは難敵だねえ？　そうじゃないかい？」
　テーブルに頬杖を突くような形でにやにや、とメリばあさん。
「難敵ってか、まあ、そんなもんじゃない？」
　ぐるりと見回してみる。…少し、場の空気が柔らかくなっているのは分かる。どこぞの得体の知れない鬼姫がその正体をバラしたのである。今度はこの不愛想な大男の番？ではあるのだが…。
「何のことはない。ホントウに千人を打ち倒したから、でしょ？」

「ふむ。実際には千人も打ち倒してはおらんがな」
「でしょうね。まー…鍛錬の一環てなとこでしょ？」
「うむ。そんなとこだ」
「でもそんなあんたはその時から真剣を持たなくなった。…なんでかなー、って」

　一瞬、険しい表情を浮かべた、ような気がする。

「あ、いや、別に言いたくないなら別にいいんだけど…ね？」
　それほど広くはない部屋だが、中にいる人間のほとんどの注意を集めているような状態。
「これは…追い込まれた、ということだのう…」
「そう捉えてもらっても結構」
「やれやれ」

「そなたには全くかなわんのう…」