TheRootSeller 外伝 6 「魔法使いを探せ！」[3-49]

　ポーじいさんとエドガーの顔役就任の間には明確な時間のズレが存在している。通常ならポーじいさんの直系の子供、つまり実子がその穴を埋めるだろう。
　…妻と子供がいた、というのはオヤジが前に言っていた。しかしいくらそれなりの時間が経っているとは言え、アマラではその存在をはっきりと感じ取れない（薬協の聞き込みをしている時にもそれっぽい話は一切出てこなかった）。この町では思い切り部外者のドリスにすらそれが分からない、ということは相当に存在感が薄いことを意味する。つまり…アマラにはいなかった、あるいはほとんどいなかったと考えられる。そんな中でその空白を的確に埋めていたのがメリばあさん、ということになるのではないのだろうか…。
「あの頃のポーはノスクルバーグとアマラの行ったり来たりを繰り返してたのさ。親族関連やら何やらも色々あって…ノースビル本家との折り合いも悪くなっちまった、ってね」
「あんたの実家でもあるんでしょ？」
　くるり、とエドガーを見る。軽く肩をすくめて見せるエドガー。
「実家っちゃあ、実家だな。ポーや俺の生まれた家、という意味なら間違いなくそうだ」
「今は…」
「俺はもうとっくに縁は切ってる。ただ、ノースビルの名前は色々と通りがいいんだ。だから今でもちょいちょい使わせてもらってるってこった。もちろんあっちには内緒でな」
「したたかだこと」
「ドリスさんに言われたくないでしょーね」
「あんだって？」
「さーて、なんでしょねー」

「ふん。まあいいさ。で…そんな時…コレを持ってきたってわけさね」
「実家が古物商だから仕入れた時に個人的に買い取った、てことはないか…な？」
「その辺は今もよく分からないね。誰かから買ったのか貰ったのか拾ったのか。ただ…コレを手に入れてから明らかにアマラにいる時間が減っていって…そのうちアレ、さ」
　天を仰いで目を閉じて見せる。
「いよいよヤバくなっちまう前に俺が正式に跡を継いだってことになるんだが」
　くるり、と紙を巻いて、詰めたタバコに火を着ける。
「あの頃は…そうだな、なんか焦ってたな。とにかく大手の貴族だの金持ちだの、ってばっかり会ってたな」

「魅入られちまったのさ」
　吐き捨てるメリばあさん。
「もういいって言ったんだ。もうこれ以上いらないだろ、って言ったんだ。でも、諦めない。ここはまだ先がある、まだまだこの町は栄える。そう言って…コレに固執しちまった」
「…投機？」
　ドリスの一言に…ぴくり、とだけ肩を動かす。
「手に入れた額との差額で単純に儲けようって話にしちゃあ…なんか違うみたいだし。こんだけレアなブツ持ってんなら信用貸しで融資も受けられやすそうだしね。それでアマラをもっとよくしようとしてた、とか？」
「そう…そういうのが一番しっくりくるかも知れないねえ…」

「でもアンフェルン。カネに狂った人間の顔って…見たことあるかい？」

　知らないわけではない。今まで出会ってきた中でもそういった人種を見たことがないわけではない。
「まあ、あたしも似たようなもんだし」
「チンケな守銭奴とマジもんは違うよ」
　ふーーーとため息。
「何事もやりすぎは良くないもんさ。違うかい？　あたしゃ、見たくはなかったのさ。あんなポーをね。ったく…」

「と言うわけでだ」
　もう一度、ぱちん、とその件の呪いの硬貨を置き直す宿屋のオヤジ。ルチアを含め、他の一同は…メリばあさんの気迫に喰われている様子すらある。
「ここですっぱり勝ってこいつを引き取っちまってくれ。とっとと持ってってくれるとありがたい」
「どっかで売ればいいんじゃない？　結構な値になるでしょうに」
「おいおい話聞いてたろ？　俺らにとっちゃ先代を呪い殺したようなもんだぜ？　代償を受け取るのも捨てるのも知らないところに売るってのも、どれもどうにもやりきれねえ。だからこういう正当な手段でおさらばしてえってことなんだよ」
「そう言われてもなー…」
　こっちとしても…いるかい、ンないわくつき、というのが正直なとこである。
「これは正式な依頼でもって発注してんだ。…そのねーちゃんが持ってた依頼書、ありゃ俺らが作ったもんだ。えーっとな、誰だったかニンダスの学者に手伝ってもらって…」
「カレンに手伝ってもらったのさ。出張のついでにね」
「…きょくちょー…」
「お前らが手に入れることができりゃ、細けえことは、もう、どうでもいいってこった。違うかい？　報酬はきちんと渡すし、そいつは売るなりツブすなり好きにしな」
「負けたら…？
　ニ、と笑う。
「何度でも依頼を出すさ。何しろ…いや、そうか、俺らも呪われちまってるんだろうな。思い出も含めて…ホントにこいつをどうにかしちまいたいのさ、なあ？」
「そうだ」
　手にしていた紙巻タバコを、ぷい、と投げ捨てる。そしてゆっくりと踏み潰す。
「もう終わりにしてえんだよ、ポーの時代ってやつを。きちんと手放しちまえばようやく終わりにできるんじゃねえか、あいつを…ようやくゆっくり眠らせてやれるんじゃねえか、ってな…」