「ちょっと、あれかな。あたしにはまだちょっと分かんないな…それが事実なのかどうか。しかもあの手紙と関係してるのか…なんてのも…ねえ？」
「俺もそうだ。だから調べてみてえんだ。もちろんお前さんの依頼も受けるさ。同時にだってできるだろ？」
「それはね。うん。問題ないけどね」
「それとな。どうにも気になってることがあるんだが…祝祭のあの『希望願望達成祈願』な。あれって有効期限はどれくらいなんだ？」
「有効期限？」
「そうだ。紙に書いた願い事はいつまで有効なんだ？」
「あー…えっとね」
頬に指当てて…少し、考える。
「多分ね、ないと思う。でも大抵はその場で叶っちゃうようなものばかりだよ？」
「それは知ってる『落し物が見つかりますように』とか『宝くじに当たりますように』とかそういうのばっかりだもんな」
ほとんどはこういった抽象的な願い事が選ばれるらしい。『落し物〜』だと去年なくしたシャツのボタンが見つかったとか。『宝くじ〜』だって一等賞が当たりますように、ではないので参加賞程度が当たっても願い事が叶ったことになる。
「全部が全部そんなのってわけじゃないけど」
「でも選んで実行するのは担当の選任官だろ？ だったら叶えられる願いだけを選ぶことも可能じゃねえか。確率いじくったりとかすれば無駄にでかい願い事にかかずり合う必要もなくなるし」
それを聞くと、むむ、と今度は本格的に考え込んでしまうマルガレーテ。
「えー君。祝祭をちょっと勘違いしてないかな…これはお祭りなのよ、お祭り。セルシアスに住む者にとっては参加する側も主催する側も等しく楽しまないといけないお祭りなの。レ、リー…レック、なんだっけリエーショ？ なんかそんなのなの」
「レクリエーション？ 娯楽ってか？」
「そ。でね…本気で楽しもうと思ったら余計なこと考えたらダメなの。本気で、本心から楽しむことだけ考えないといけないの。でないと七日もこんなことできるわけないじゃない」
「それはそうだけどな…」
何が言いたいのだろうか。どうにもよく分からないエーセストではある。
「つまりね。あの箱には一切細工はしてないの。選びに選び抜いた『お願い』だけが当選して、それを実行してきたの。本気と本気のぶつかり合いのガチンコ勝負ってやつ？ そうでないと楽しくないでしょ？」
テーブルの上にも何枚か、乱雑に散らばっている紙切れを手にとって…何か数行程度をすらすらと。
一、願い事を選ぶ時は魔法を使うなかれ
一、願い事は何があってもどんな手段を使っても必ずかなえるべし
一、全ての願い事をかなえることは最大の責務であり義務である
「はい」
「…何だよ、これ」
そこはもちろんマルガレーテの字だから読みにくいことこの上ない。さすがのエーセストも一回は引っくり返したほどである。
「願い事心得、ってとこかな」
「なんだか結局はどれも同じようなこと言ってるようにしか見えんが」
「それも含めて心得。真剣に遊ばないとね。願い事をかなえるのに魔法は使うけど、選ぶのには魔法は使わない。これはずうっとずうっと伝えられてきたことなの」
「何か…じゃ、あれって魔法関係で何かしてないのか…？」
「そのはずよ」
「はずってなんだよ…」
「だって選ぶのはあたしたちじゃないし。王室付きのえらい選任官や魔法学者の人たちが選んでくれるの。それを実現すんのはあたしたちだけど」
「おいおい。その王室付きの連中が叶えやすそうな願いごとを故意に選んでるって可能性はないのかよ？」
「ないっしょ。だって、何たって王室付きなんだから」
「でも信用はできねえだろ…」
「そうね。でも」
ふふふ、と笑みをもらして見せる。こういう時の表情は年相応に大人びて見えたりするものだから女性は分からない。
「信じてないとね。何たって祝祭なんだから」
結局のところあの手紙の出所など分からない。
そこでとりあえずマルガレーテの依頼をこなしつつ手紙のことを探る…ということで落ち着いた。技研からの正式な依頼だから規定の報酬もきちんと払われる、はずである。
